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第6話パーカーを救え その4

アップタウンハウスを出た私とジェシカはタクシーの中で少し話しをした。
「このままだとダニーがパーカーに取って代わってしまうんじゃないだろうか
そうしたら、本当にジャズ史が変わってしまう。」
「そうね、少なくとも大きなインパクトがあるわ、さっきのパーカーを見た」
「いや」
「ダニーをすごいと言って騒いでいたニカ男爵夫人を恨めしそうに見ていたわ」
「そうだろうな、わかるよ。レギュラーもほしいはずだし、でもあのソロは全部
パーカーが考えたんだぜ、あんなのあるかよ。」
「そうよ、だから、この手の犯罪はとても罪深いのよ。なんとかしなくちゃね。」
「でっ、ハッカーはまだこの時代にいるのかな」
「多分もう出ていってしまったと思うわ。それより来週のバトルセッションで
パーカーを有利にする方法なにかないかしら」
「あの少年をさらっちゃうというのはどうかな。」
「駄目よ。ニカ男爵夫人が納得しないわ。私立探偵を1000人雇ってでも探し
だすわ、財力があるから。それにそれ自体犯罪になるでしょ。」
「まいったなあ。すげえおばさんだ。という事は来週のバトルセッションでパーカー
が勝たなければだめなんだな。」
タクシーの運転手は私とジェシカの会話を聞いて不思議そうな顔をしている。
「ねえ、さっき言っていた本だけどなんて言ってたっけ。」
「オムニブックの事?」
「あっ、そう、それ持ってるかしら、パーカーさんに見せたらどうかしら」
「ええっ、...。パーカーにオムニを....。(一瞬絶句)なるほど、もし
パーカーが見たら、元々かれが考えたアイディアだし、すぐに吸収してしまう
だろうな。あのダニーよりも数段いいソロが出来る可能性は十分あるな。そうか、
それで行こう。でも未来の情報を過去の人に教えるのはまずいんじゃない?」
するとジェシカは携帯電話のようなものを取り出した。
「大久保捜査官ですか、ジェシカです。そうですか。それでは後で、」
電話をしまって、ジェシカが説明してくれた。
「今、取り込み中みたい。情報の歴史間移動についての特別許可をもらおうと
思ったの、取りあえずコード198を入れておいたわ。」
そろそろ目的地に近づいて来た。
「あ、あそこの倉庫の前です。そう、そこで止めてくれますか。」
すると運転手が初めて話した。
「ここでいいですか、気をつけてくださいよ。トミーガン持ってないようだね。
家の息子は大きくなったらFBIになるんだって言ってますよ。」
「ありがとう、大丈夫よ防弾チョッキつけてるから」
ジェシカと私はタクシーを後にして、古い倉庫の中にある私のタイムマシンに
載り込んだ。
「これね、2150型だわ。オークションでは時々出ていたの知ってるけど、
実物を見るのは初めてだわ。私の時代では遠の昔に製造中止よ。いったい
どうして手に入れたの?」
「いや、それが突然自宅の庭に置いてあったんだ。初めはだれかが古い
コンテナーを不法投棄したのかと思ったんだけど、中に入ってみると驚いた、
見たこともない装置がこんな風にコックピットみたいにあるでしょう。ところが
ここにあるヘルプボタンを押したとたんにディスプレイがついていろいろと説明
をしてくれるんだ。質問をすると的確に答えてくれる。面白いので1週間くらい
この機械とやり取りしていた。そのやり取りの中で時間理論や時空の発見、どう
して時空を飛べるか、などタイムトラベルに関する知識をすべてを学ぶ事が出来た。」
「おそらく、誰かが古くなって不法に捨てたのね。処分すると結構お金がかかる
のよ。最近は新しいのを購入しても持っていってくれないから、21世紀に自動
で送りだしたのね。」
 もったいない話しだ。しかしもし1939年のこの時代の人たちに古くなった
テレビを捨てるのに5000円取られると説明したら信じてくれないだろう。
「プルーン、プルーン」
またタイムマシーンのアラームが鳴り出した。
「どうですか、今ジェシカもそこにいるのかな。」
大久保捜査官からの連絡だ。
「さっき、電話をもらったけど、ちょうどいい、こちらから
まず報告するよ。」
「ええ、良いわ」
「たった今、1939年から時空に突入した不信なタイムマシンが見つかって、
時空サテライトに強制着陸させて取り調べしたところ、例のヒストリックハッカー
だという事がわかった。名前はティモシーリッチ。男性、白人、32歳だ。どうやら
ヒストリックハッキングは上手く行かなかったようだ。ティモシーの話しだと先祖に
ダニーリッチというミュージシャンがいたが50年代に頭角を現したそうだ、音源は
残っていない。ところが人気が出始めたときに他のミュージシャンに薬を持っているこ
とをチクられた。その後は刑務所に行って出所したのは1980年になってからだ
。このことを代々恨んでるようだ。それで1939年と言う時代に自分が乗り
こんで、その後の時代のミュージシャンを苦しめてやろうと思ったらしい。ところ
がティモシーの吹くサックスはデビットサンボーンそのままのスタイルで当事の4
ビートに乗れなかったようだ。まあ良くある勘違いという事だね。小室田さん、そう
言うわけで、もうこれ以上捜査協力は必要ないと思う。どうもありがとう。」
ジェシカがまた話しはじめた。
「あのー、ちょっと言いたい事があるんだけどいいかしら?」
「何だい?」
ジェシカが今までの事すべてを大久保捜査官に報告した。
「えー、そりゃ厄介な事になったなあ、小室田さんもう少し協力してもたっても
いいですか?」
「今、オムニブックを取りに戻るための年代入力してますよ。」
「コード198は承認します。ジェシカ、認証ワードを送った、確認して
くれ」
「了解、確認したわ。私は明日パーカーと会う約束をしておくわ、それとダニー
についてももう少し聞いて裏を取るわ、ところでハッカーのティモシーリッチは
白人っていったわね。ダニーはどうかしら?」
「記録によるとダニーも白人となっている、違うのかい」
「こっちのダニーは黒人よ。おかしいわね。とにかく調べて見るは」
「それじゃちょっと行ってきます。コード198は情報の時間間移動の許可
ですね。」
「そうよ。大変ね。往復12時間くらいでしょ。」
「はあ、ところで、ジェシカ、今噛んでるガムミントかい?」
「はい、全部上げるわ」

第7話パーカーを救え その5 バトル

 しかし、疲れた。往復12時間の旅だった。しかも自宅においてあ
ると思ったオムニブックだが、人に貸したまま返してもらってない事
に気がついたので、御茶の水の神田楽器楽譜ショップまで買いにいっ
て来た。E♭がなかったので、C譜版にした。確かパーカーはC譜を
読んでいたと記録があったので、問題ないだろう。もちろん表紙を外
して、すべての曲の題名、作者、著作表示なども切りとっておいた。
パーカーが自分の作品だと書いてあったら変に思うに違いないからだ。
 再び1939年に戻った私はすぐにステージが始まる前のアップタウン
ハウスに出向いた。30分ほどしたところで、ジェシカがパーカーを連
れてやって来た。たぶんどこかでジェシカがパーカーに食事をおごった
かなんかしたのだろう。
2人がテーブルにつくとパーカーが話し始めた。
「あーそうだ、ジェシカ、ガムないかい」
「あ、ごめんなさい、今ないの」
「よかったらどうですか。ミントですけど」
私が21世紀に戻る前にジェシカからもらったのが残っていたのでそれを
差出た。パーカーはうなずいて、
「えーと、確かジェームスさんでしたね。」
「ええ?あ、そうです。ジェームスローです。」
「さっきジェシカから聞いたんですが何か面白い譜面をお持ちとか?」
ジェシカが密かに私の方を見てウインクした。話しは通じてるようだ。
そして、私は持って来た袋から例のオムニブックを出そうとして手を
入れたが、なぜか手が震えてる。なぜ?というより当然かも知れない、
この譜面を見てパーカーがどんな反応をするか創造するだけで怖くなる
くらいだ。
「これです。」
パーカーはオムニブックを開くとすぐに譜を追い始めた、しばらくすると
突然右手パッチンで2,4のカウントを入れながら小さな声でメロを歌い
出だした。
「ダッ、ダラダ、ダダドュダ、ダダッ」
またしばらくじっと見ているとまた右手パッチン、そして
「タードュバダ、ダバダバ、ダッ、ドュディー」
こんな感じがが30分ほど続いただろうか。
そして、突然パーカーはこの本をテーブルに置き今まで見たこと無いような
真剣な表情でそして静かに低い声で私に問い掛けた。
「ジェームスさん、これはだれかのソロなんですか」
「えーと、これはですね。まあソロのアイディアを譜にしたもので、まだ
実際に演奏されているわけではないんです。アイディアを出したのがが誰
かというのは聞かないでほしい、絶対にね、それが条件ですよ。」
とりあえず、私はこんな事を言うしかなかった。
「条件?」
「そう、この楽譜を貸すためのです。」
「貸してくれるのかい?」
「えー、こんどのセッションバトルまで」
「OK、ありがとう。ほんとうに。これはすごい譜面だ。ところでもう一つ
聞いてもいいかな、なぜあなたたちは僕にこんなに親切にしてくれるんですか?」
「そうね。きっと未来のあなたのファンのためよ」
しかし、ジェシカのこの答えにパーカーは納得しなかったようなので、
「あの、ダニーっていうガキが気にいらねえんだ。」
と私が返事すると。
「OK、奴にには絶対負けない、見ていてください。」

 さて、いよいよセッションバトルの日が来た。アップタウンハウスの客席
はほとんど満席だ。ジェシカとニカ男爵夫人がいつもいるテーブルにもう一人
中年の紳士がいる。
「この店のオーナーのクラークモンローさんよ」
ニカ夫人が私とジェシカに紹介してくれた。そのクラークさんは
「今日はダニーリッチとチャーリーパーカーのバトルを楽しみにしてる。
良かった方は来週からうちでレギュラー出演してもらう予定だ。」
私はニカ男爵夫人とクラークさんに向って
「きょうのパーカーは違いますよ。絶対に勝ちです。」
するとニカ男爵夫人が
「面白くなって来たわね。私はダニーに賭けてもいいわよ。」
「それなら、ぼくはパーカーに100ドルかけるよ。」
つい勢いで言ってしまった。ニカ夫人は微笑みながらうなづいた。
さて、バトル開始5分前だ。まだパーカーは店に現れない。リズム体はすで
にステージについてセッティングも良さそうだ。するとバックステージに
いたダニーリッチが出て来た。それから開始時間が10分過ぎた。このままでは
間が持たないので、ダニーだけで1曲演奏する事になったようだ。
 ダニーの演奏が始まった、曲名はわからないがB♭の循環コードのようだ。
相変わらずバップフレーズの嵐だ。ところが前回と状況は大きく違っていること
がすぐにわかった。観客だ。この1週間ですっかりバップフレーズに慣れてきて
しまって、もうダニーの演奏は受けている。ダニーのソロが終わったら会場から
すごい拍手が沸いた。なんかやばいなあ。パーカーはどうしたんだろう。そして
ピアノにソロがバトンタッチして4章節ほど演奏したその時、店の入り口付近から
すごい音量でサックスを吹く男が入って来た。チャーリーパーカーだ。おーい待
ってたぞ。しかもそのフレーズはあのサボイやダイアルで聞きなれたまさにあれだ。
店の観客全員がパーカーの方に注目した。そしてそのままステージに向って来た。
 パーカーはソロを吹きながら私たちのテーブルの前を通った時ズボンの後ろ
ポケットに入れていた例のオムニブックを右手が空いた瞬間にさっと取り出して
テーブルに置いた、そして、私とジェシカに向かってウインクした。この間も
全く休むことなくバップフレーズがまるで洪水の様に飛び出してくる。そう、
つまり彼にとってはこのオムニブックはもうなんの役にも立たない物と化した
のだ。ところが突然、この後アクシデントが起きてしまった、パーカーがステー
ジに上がって少したったら突然演奏を止めてしまった。
「どうしたの、楽器の調子が悪いのかしら」
ジェシカが心配そうだ。アルトはコーン6Mだ。私はパーカーのそぶりから事態
をすぐに認識できた。
「オクターブキーが戻らなくなったようだ。ばねがはずれただけだよ。」
ところが、その後パーカーが床の上をなにやら探しはじめている。もしかすると
非常にまずい事が起きたかもしれない。
「オクターブキーのバネが折れてふっ飛んだようだ。」
「それがないとどうなるの?」
「オクターブキーを押して1オクターブ上げることは出来ても、こんど離したときに
キーが戻ってこなくなるので、演奏上は致命的だ。替わりの楽器を探したほうがいい。」
「でも、テナーを持っている人はいるけど、アルトをもっているのはダニーだけよ。
ダニーが貸してくれるわけないわね。」
その通りだった。運が悪すぎる。ダニーもこの事態に気がついたようだ、パーカーの
替わりに再びソロを取っているピアニストに向って次ぎはまた俺に回せと合図している。
ここで一揆にソロを吹きまくって、パーカーにあきらめさせるつもりだろう。
すると突然パーカーがジェシカに向って叫んだ。
「ジェシカ、今噛んでるガムミントかい?」
「そうよ。でももう切れてるの」
何を言ってるんだろう、そんな場合じゃないだろう。それよりもオーナーのクラーク
さんに何とか後日やりなおしを頼めないかな。と考えていたら、
「じゃ、その今噛んでるやつでいいからくれないか」
再びのパーカーの呼びかけに半ばあきれたジェシカも口からガムを取り出して、
ステージの上にいるパーカーにめがけてガムを投げた。するとパーカーは右手
でそのガムをキャッチし、口に入れるかと思ったら、一方を歯に噛んで、もう一方
を掴んだ右手で伸ばして、そのままこんどは左手の親指に巻きつけた。そのとき
パーカーが何をしたいかようやく状況がつかめた。そうだ、あのまま、ガムが巻かれた
左手の親指でオクターブキーに触れば、バネがなくとも親指を離せばガムでくっつ
いたオクターブキーが戻ってくるではないか。すごいリペア技術だ。
 ピアノのソロが終わって、再びパーカーのソロが始まった。もう全く、バップ
フレーズの洪水だ。しかもどのフレーズも外れがない、完璧だ。パーカーのソロ
が終わった後、観客はほとんど全員総立ちで拍手だ。そしてこんどはサックスバトル
の8バースになった。これはもうダニーにとっては惨劇だ。ダニーが吹いたその
フレーズをパーカーはすぐさま引用し、さらに転調して、最後には譜割をずらして
ディミニュッシュインターバルのフレーズで終わる。また、ブルーススケールを
4章節やったと思ったら、突然コードトーンをバーチカルに吹き、そして信じられ
ないくらい早いグリッサンドで閉じる。1コーラスが終わるころになると、もう
ダニーはこれ以上何も吹くものがないと言う感じになってしまった。テーマに戻った
時すでにダニーはステージを降りてしまった。最後のテーマはパーカーが吹いた。
もちろん、違うテーマのレスターリープスインで終わった。
 演奏が終わって割んばかりの拍手が響いてるなかで、ふっとテーブルの自分の前
を見たらピン札の100ドル札が1枚置いてあった。そしてニカ男爵夫人がこっち
を見てにこにこしている。そして私の耳元でジェシカが囁いた。
「これで仕事も終ったわね。」
その時ふっと気になってダニーの方を見たら楽器をケースに閉い終わって店から
出るようだ。この時のダニーの気持ちは私にはよくわかった。もはや歴史を脅かす
ハッカーの影は跡形もなく、気の毒な黒人少年にしか見えなかった。
「ちょっとダニーと話してくるよ。」
「私も行くわ。確認しなくてはならない事もあるから。」
店を出て階段を上ったところで、再び私とジェシカはダニーに合った。

第8話パーカーを救え その6秘密

「いやー、君のさっきの演奏も良かったよ。」
私がダニーに切り出した。
「ありがとう、そうかい、でもあの人はすごいね。ほんとに。あそこまでやられる
と気持ちが良いくらいだよ。頭の中まですっ飛ばされたような感じさ。相手が
悪過ぎた、こんどバトルをやるときは気をつけなきゃね。」
そしてジェシカが質問した。
「ちょっと聞いてもいいかしら、あなたティモシーという男知らない?」
「ティモシー?」
しばらくして
「ああ、あの妙な演奏をしてた人かな、3ヵ月ほどまえにジャムセッションに
突然現れて、自身たっぷりに俺のソロを聞けと言うので聞いていたら、全然スイング
してないんだ。それでキンキンとした高音が好きで良くリードミスしてピーとか
やってた。あんまりなめた演奏なので、観客が怒りだしてウイスキーのボトル
を投げた。そのボトルをサックスでよけながら、ステージを降りて行ったよ。
その後で僕が吹いたんだけど、僕の演奏を気に入ったらしく、セッションが終わって
から、金をくれたんだ。そして不思議な楽譜を見せてくれた、さっきの変な演奏
が書いてあるのかと思ってちょっと見てみたら、面白いソロのアイディアがいっぱい
あるんだ。ところが題名とかコンポーザーのところは黒く塗られていた。その
男がその楽譜を貸してもいいというので、もちろん借りたよ。」
 「それでその本は?」
「先週返したよ。遠いところに旅だつと言っていた。」
これで真相は大体わかった。ジェシカは携帯電話をかけに少し離れたところに行った
 そしてダニーがまた話しはじめた。
「でも、今回わかったよ。やっぱり人の考えたソロを使った演奏はだめだね。
時間は掛かるかもしれないけど自分の物がないと通用しないという事が。」
「そうだよ、良かったじゃないか。それがわかっただけでも」
「まあね、あんたもサックスやるのかい?」
「ええ、ちょっとは」
「そうか、ところで、そいつは都合がいい、このサックス買ってくれないかな?こっちでは
仕事がなさそうだから、西海岸にでも行ってみようと思っている。旅費がいるんだ
100ドルでどうだい、80ドルでもいいよ。」
「キングのゼファーだね。良い楽器だ。いいよ」
私はニカ男爵夫人から取った100ドルがちょうどあったので、それをダニー
に渡した。そしてダニーが楽器を私に渡そうとしたので
「ああ、ところで楽器がないと困るだろう。良かったらこの楽器しばらく君に貸して
もいいよ。実は事情があってすぐに持って帰れないし。」
するとダニーはちょっと以外な顔をして
「ええ、いいのかい。そりゃ助かるけど、何時返せばいいのかな。」
「いいんだよ。ほんと、そうだな、やっていけるようになるまででいいよ」
「そうよ。砂漠に埋めておくよりずっといいわね。ふふふふ」
ジェシカが戻って来た。なんだネバダの件聞いていたのか。
「ほんとうにありがとう。まだ名前を聞いていなかった。そう言えばぼくも
名乗って居なかったけど。」
「これは失礼。ジェームスローと言います。そしてこちらの美しい女性は
ジェシカジョーンズ。君はもちろん知ってるよ。ダニーリッチでしょ。」
「あ、そうか、実はさっき話すのを忘れたけど、例のティモシーなんだけれど
彼があの不思議な楽譜を渡す条件として、ダニーリッチという名前を名乗る
ようにと言われたんだ。まあ覚え安ければなんでもいいから」
「じゃ、君はダニーリッチじゃないんだ。そうか。」
これですべて謎が解けた。ジェシカもうなづいた。
「ところでなんて言うんだい本当の名前は」
「ソニーと呼んでください。ソニースティットと言います。」
驚いた私とジェシカは思わず顔を見合した。
「いつかあなたの演奏をレコードで聞けるのを楽しみにしているわ」
「そんなプレーヤになれるかな。」
「絶対大丈夫だよ。請合うよ。」
「不思議な人たちだ、なんだかあなたたちは僕の未来を見ているようだ。
 ところでさっきバトルしたプレーヤだけど彼もあの不思議な譜面を
見た事あるようだね。ときどきあの譜面のフレーズを吹いていたし、全体
的なスタイルも近い、でもあの譜面のフレーズを吹いたのは僕の方が先
だったけどね。」
「スティットさん、その事はこれから誰にも言わない方がいいですよ。
無意味なことでしょう。秘密にしよう。」
「もちろん。秘密さ。ありがとう。それじゃ」

第9話 黄金のカルテット その1

機内アナウンスが聞こえてくる。
「皆様、当機、日本航空JAL753便ラスベガス行きは2時間ほどで
ラスベガス国際航空に到着いたします。....」
 あれから3ヶ月、なかなか仕事が忙しくて、砂漠に埋めておいたア
メセルを取りに行く事が出来なかった。しかし、上手い事今回は
1週間のラスベガス出張となった。しかもラスベガスの展示会を見る
だけ。
 本当はタイムマシンの空間移動機能を使えば一瞬で行けるんだけど
大久保捜査官が言うには例え空間移動でも一旦は時空を超えるので、
もし、そこで万が一にも時間警察の検問に引っかかって、タイムマシン
の中にビンテージ楽器があると厄介な事になるというのだ。結局、
こうやって飛行機で来るしかなかったのである。
 そうそう、あれからジェシカからまた連絡があり、1939年のその
後をウォッチしていたそうだが、無事パーカーはアップタウンハウス
でレギューラーになったそうだ。但し演奏自体はまた前のスタイルに
戻ったと言っていた。やはり、バトルの時と違って一般のお客さんに
はその方が受けがいいからだとパーカーは言っていたそうだ。この前
のスタイルは今のスタイルにお客さんが飽きてきたら使い始めるそう
である。パーカーが言うには数年先になるだろうと言う事だ。実に頭
の良い男である。ジェシカはおかげで歴史に対するインパクトもほとん
ど無しだと言っていた。
 飛行機はラスベガスに到着。相変わらずGate前の待合スペースに入る
とスロットマシンがジャラジャラ音を立てている。入国審査後、空港ビ
ルの出口でタクシーにのり、ダウンタウンのクイーンズホテルまでと言った。
 「旦那、そんな下町のホテル、日本人のビジネスマンはだれも行きません
よ。」
「このホテルにはジャズのライブハウスがついているので」
 しかし、治安は高級ホテルに比べれば悪いかも知れない。
さて、ホテルについてから少しゆっくりすることにした。ただし、ここ
で寝てしまうと以後、夜と昼がひっくりかえってしまう。またまたユンケル
の登場だ。しばらくすると部屋の電話がなった。いったい誰だろう。
 会社からかなあ、いやこの時間、まだ日本は夜中だ。取りあえず受話器を
取った。すると女性の声でやや早口の英語で確かに私の事を呼んでるようだ
が、聞き取れない。しかたない、
「ジャストモーメント」
ジェシカからもらったトランスレーションピルを飲むことにした、どの道
必要だし。
「すいません、どなたですか、どうぞ。」
「はじめまして、アリソンバーラインと言います、実はあなたの事はジェシカ
さんから聞いたんですよ。私はジャックオールドリッジ氏の秘書をしている
ものです。実はオールドリッジ氏があなたに是非お会いしたいというので連絡
したんです。」
「ジェシカからですか?ということはあなたたちはもしかして?」
「その通りです。22世紀から来ているものです。それで大変申し訳ないで
すがこちらのホテルに来ていただけますか?」
「どこですか?」
「ラスベガスヒルトンです。もちろんこちらから向いを出しますが」
「ああ、そうですか、わかりました。」
まあ、いいやなんだか知らないけれど、とりあえず暇なので、ジェシカの
知り合いなら問題ないだろう。それにアメリカの他の場所と違ってこのラ
スベガスというところは治安がすごくいい、そんなにやばい話しはないはずだ。
 しばらくすると部屋のドアをノックする音が響いた。ドアをあけると、そこに
こんどはブロンドの長身の美女が立っいた。もちろん、先っきの電話の女性だ
と言う事はすぐにわかったがこの瞬間、心の内側で「ラッキー!」という叫びを聞き
取れない男というのはまずいないだろう。
「こんにちはアリスです。」
「ジェームス..あーいえ、小室田です。」
すぐにホテルの前に止まってる車に案内してくれたのだが、なんとリムジン
ではないか、入ってみるとゆったりとしたリアシート、そこにバーまでついて
いる。そして、目の前には20インチくらいの液晶のディスプレイがついているが、
車が走りだしたら、そのディスプレーと伴に多分DVDがついているのだろう、
再生をはじめた。するとジャズの映像と音だ。実にリアルな音で再現できている。
サイラスチェスナットのトリオだ。実に快適だ。どうもこの人たちもジャズに
なんらかの関心がある人たちかもしれない。
「ところで、私がラスベガスにいることをどうして知ってるのですか。」
「もちろん、ジェシカに聞いたんですよ。」
ああ、そうか。そう言えば言っておいたからな。
「でもホテルはどうしてわかったんですか。」
「ああ、それは感ですよ。ジャズのライブをやるところはクイーンズ
ホテルしかないでしょ。もしあなたががロック好きだったら」
「ハードロックホテルっていうことか」
「そうよ、もちろん、全部のホテルに確認してもそれほど時間はかからないわね」
ガビョーン、やられたな。
 しかし、その直後、DVDの再生がサイラスチェスナットに変わって出てきた
次のグループに私は目が釘つけになった。ジョンコルトレーンだ。そして曲が
始まった、アフリカブラスだ。しばらく見てるとピアノがマッコイタイナー、
ドラムはエルビンジョーンズ、そして確かにベースはジミーギャリソンだ。おお、
これは黄金のカルテットではないか。しかしこの映像はいままで見たことがない
。しかもカラー映像だ。そして音も異常なくらいいい。さっきまで流れていた、
最近取ったサイラスチェスナットとなにも変わらないくらいだ、同聞いてもこれ
はデジタルの録音ソースだ。そうか、この映像はもしかしたら、と私が考えはじめた
時、突然私が何を考え始めたかを悟ったようなタイミングでアリスが話しかけてきた。
「この映像すごいでしょ。断っておきますが私たちは時間法を破ったことは一度
もないんですよ。」
「だってこれ同考えたって、..あ、そうかだれかが行って取ってきたやつかな。」
「いいえ、この映像はリーガル(法的に正当)なものなんですよ。」
「ほんとですか。信じられない。」
「そのうち、オールドリッジさんに会えばきっといろいろ解ってくると思います。」
なんだか急に脈拍が上がってきたような気がしてきた。それと期待感が急速に膨らん
でくると同時に何やらちょっと怪しげな危険な予感をもったのである。
ラスベガスヒルトンの最上階までエレベータで上がり、そこのスイートルームに案内
された。アリスがドアをあけたら、中から老年の紳士が出てきた。
「小室田さん、御待ちしていました。ジャックオールドリッジです。」
「はじめまして、テンイチ小室田です。」
すぐに中に案内してくれたが、部屋が沢山ある。そのうちの一つはオーディオルーム
になっている。しかもぱった見ただけでもスピーカやアンプの名器が並んでる。JBL、ボーズ、B&W、ウイルソン、マッキントッシュ、KT−88のチューブアンプ、マークレビンソン、しかしその中でも格別マニアックなアンプを見つけた。 確か以前富樫氏に見せてもらったことがあるが、フッターマンアンプだ。真空菅OTLの名器である。するとオールドリッジ氏が話し始めた。
「いやー、この時代のオーディオ装置はすばらしい、22世紀では聞けない音ですよ。」
 そうか、ビンテージのオーディオ装置も当然時間移動禁止なんだろう。すでに現在でも ビンテージになっている物も多いが。だからこうやってはるばる21世紀まで来て 音を聞きにくるのだろう。贅沢な話しだ。そして続けて
「ジャズは1960年代が最高ですね。」
「私も好きですよ。コルトレーンの時代ですね。ところでなぜ私をここへ?」
「ああ、これはどうも失礼した。その説明をする前にまずこのCDを聞いてくれますか」
 そして、オールドリッジ氏が取り出したCDはジョンコルトレーンのインパルスの有名
な「コルトレーン」であった。

 
第10話 黄金のカルテット その2  謎のCD

 何回も聞いてるCDなので、ちょうど、ここの装置のチェックに
は最適だ。まずはJBLの4344ととマッキンのC22というオ
ーソドックスな組み合わせでスタート、
「うーん、やっぱりテナーの音がリアルですね。音に質感がある。」
「ところでここにこんなCDがあるんだけで聞いて見ませんか」
オールドリッジ氏が取り出した、そのCDには「コルトレーン:
セカンドエディション」と書いてある。てっきり別のスピーカ、別の
アンプの試聴をさせてくれると思った私には以外な展開だった。それ
にしてもこのCDは見たことも存在すら知らない。
「これは?知りませんでした。もしかして22世紀に発掘されたんですか」
「とにかく聞いてみてください。」
エルビンのアフロリズムが鳴り出したとたん私はハッとした。そして
コルトレーンのソロだ。まるですぐここで本人がいるのかと思うほど
生生しい、というよりマスターテープのヒスノイズが全くない。もち
ろんオリジナルのソースがデジタル録音されていれば当たり前のこと
だが、録音されたのが60年代なので、あろうはずがない。やっぱり
60年代にタイムマシンで取りに行って来たのか。いやそんなイリー
ガル(不法)な事はしないだろう。もう一つ考えられることは22世紀
になると、このヒスノイズを完全に消去できる技術が完成するのかも知
れないということだ。
「もう一度このCDをはじめから最後まで聞かせてもらえますか?」
「えーいいですよ。気が済むまでどうぞ」
オールドリッジ氏はまるで、大事な宝物の隠し場所を知ってる人が
あるいは手品氏がお客さんをだまして喜こんでるかような表情をし
ている。そして明かにこのCDの秘密が何かを私に当てろと言って
挑戦してるようでもある。私も21世紀のジャズマッドネスの一人
として、簡単には引き下がれない。
 オールドリッジ氏がまた来ますよと言って去った後、それから何回
聞いただろうか、少なくともこのソースは完璧だ、音響技術による細
工は一般的なイコライザーとリバーブが少しかかっている程度だし、
不自然さをなにも感じない。22世紀の音響技術は私には見破れない
のか。そして今度は楽曲を良く聞いてみることにした、そして、さら
に数時間がたった。そこで私は一つの不自然な事を発見した。すると
ちょうどアリスがコーヒーを持って来てくれた。
「コーヒーです。どうぞ」
「サンキュー」
 数分するとオールドリッジ氏が再び来て、コーヒーを飲みながらこ
のCDの話しをすることになった。私は自分の頭の中で巡っている
いろいろな事を整理しながら話しはじめた。
「これは完全にデジタルマルチトラックレコーダでの生取りですね。
しかもデッドなところでとって空間系のイフェクトと多少グラエコが
掛けてありますね。このようなソースの制作が可能になったのは19
80年代くらいからです。コルトレーンが生きていた時代にはありま
せん。そこで、まず確認しておきたいのですがこのソースは時間法に
対してリーガルなものですね。?」
「ええ、もちろんリーガルですよ。でないとジェシカたちにつかまっ
てしまうからね。」
「ああ、どうも失礼、疑ってるわけではありませんので。」
「その質問は当然だよ、全く気にしていないから。続けてくれたまえ」
「私の結論ですが、このCDで演奏しているのはコルトレーンカルテ
ットではないという事です。但しかなり苦しいですが」
「ほう、ではその理由を聞かせてくれますか。?」
「まず1曲目の
アウト・オブ・ディス・ワールド ですがこれはオリジナルの
テイクとくらべて全く同じ内容です。だからこれだけ聞くともしかして21
世紀の私には理解できない高度な音響技術によってマスターテープの
ヒスノイズを完全に消したと思ったのです。
 そして2曲目のソウルアイズ、これはテーマのフェイクから完全に別
テイクです。アドリブも全部違う、これは22世紀になって発見されたか
なにかしたマスターテープがあってそれから同様にヒスノイズを消去した。
として説明つけられる。しかし、わからないのは最後のマイルスモードで
す。8章節のヘッドリフの後16章節のサビがあり、このサビはアドリブ
になってる。ところがこのアドリブのフレーズはマスターテイクと全く変
わらない。そしてまたヘッドリフが終わり、本来のアドリブになるがこの
アドリブパートはマスターテイクと全く違う。つまりこの16章節はコル
トレーンがリフ化していたという事になるが、だれが聞いてもこれはリフ
化するようなフレーズではないし、コルトレーンの音楽的志向から考えて
あり得ない。
 そこで、もう1つ考えられる可能性としてもともと別テイクがあって
その別テイクのさびの16章節を本テイクのものに編集で入れ替えたという
ことです。ところがそれも不可能であることに気が付きました。このサビ
はコルトレーンは本テイクと同じなのにジミーギャリソンのベースランニ
ングが違っている。この時代ではまだマルチトラックレコーディングはされ
ていなかったので、楽器個別の入れ替えは出来ない。それともう一つ気が
ついたことがあるんです。アドリブのある部分ですが本テイクと全く同じ
フレーズを8章節吹いているところがあります。コルトレーンはいわゆる
50年代のバッパーと違って定型化したフレーズはもっていないし、使い
もしない、そこで私の結論はこの演奏しているのはコルトレーンではなく、
その後に彼らの演奏を再現するために徹底的にコピーしたバンドではない
かということです。ただ、そうは言ってみたもののあまりにも似ているの
で確証が持てないのですが。特に別テイクを聞いてもコルトレーンの雰囲
気というか味のような物を感じるんです。」
 するとオールドリッジ氏は喜びながら話はじめた。
「いや、小室田さん、すばらしい、そこまで見ぬかれたとは。しかし一つ
だけまだ気がついていない事があります。」
「......」
「それは確かにこれは一種のコピーバンドかもしれない、しかしそれでは
コルトレーンカルテットと全く関係ないかと言うとそうでもないんですよ。
演奏しているのは本人であるとも言えるのです。」
「ええ、本人?」
オールドリッジ氏の表情が少し真剣になって来た。
「秘密を教えましょう。このバンドは厳密に言うとコピーバンドではなく
クローンバンドといいます。」
この瞬間、私はこのクローンと言う言葉に思考エンジンが強力なエネルギー
によって作動していくことを感じた。そう、クローン、の響きはまさに人
が触れてはいけない神の領域を侵す邪悪なイメージを持たずにはいられな
い。
「ちょっ、ちょっと待ってください、今クローンて言いましたか?」
「ええ、そうです。クローンです。これを演奏しているのはみんなクローン
人間なんです。もちろん、本物のジョンコルトレーンを初め全員直系のクロ
ーンです。」
「小室田さん、コーヒーもう一杯いかがですか?」
アリスが声をかけてくれたが私ももう何か思考停止常態というか、はっきり
言ってここに今いることすら考えたくないような、知ってはいけない組織
の秘密を知ってしまってその後ずっとマイフィアから追いかけられて、逃亡
生活をしていく運命の人の気持ちと言ったらいいだろうか。
「いや、すません、驚かせてしまいました。驚かれたでしょう。21世紀
ではまだクローン人間は非合法ですからね。ああっ、ちょっと待ってくだ
さい。あなたが聞きたい事はわかってます。まず私に説明させてください。
まず、クローンは22世紀では合法なんです。ああっわかってますよ、
それと時間法ですね。20世紀のDNAを22世紀に時間移動できるかで
すね。それも正しい手続きがあれば許可されます。」
 私はとにかくオールドリッジ氏の話にしばらく耳を貸すことにした。
「クローン禁止法が米国で制定されたのは2010年のことです。そうだ
ったよね。アリス」
「ええ、そうよ、2010年9月6日だったわね。」
「さすがだねアリス。いや彼女は歴史のエキスパートなんですよ。ところで
禁止された理由だがあなたの方が詳しいかも知れないがやはり米国では宗教的
な理由が大きかった。やはり神の領域を侵すということだ。」
「そうかも知れません。」
「その後クローン技術自体には言わば封印がされて、米国では完全に廃れた。
もちろんDNAの研究は人口臓器や医療分野での研究は盛んに続けられて行った。」
「なるほど。」
「ところが、2050年ころになって大変な事が起きたんだよ。国際IP戦
争だ。」
「第1次IP戦争ね。」
「ありがとう。アリス。実は東洋のある国と言っておこう。その国はアメリカ
がクローン禁止法を成立した2010年ころを前後して、ハーバード、ケンブ
リッジ、オックスフォード、プリンストン、 MITなどの主に米国や英国のその中で
も優秀な学生100人のDNAを採取してそれを1人に突き100人のクローン
人間を作り出した。つまり10000人の優秀な人材を手に入れ、もちろん子ども
のころから徹底的な英才教育を施した。その結果、2050年ころになるとその
アジアの国でかれら優秀なクローン集団が次々と新しい発明、システムやソフト
ウエアーを考え出したたんだ。アリス、私にもコーヒーをもらえないかね。」
アリスがコーヒーを注いぎ、そしてコーヒーを飲みながら
「こっから先はアリス、君から話してくれないか」

第11話 黄金のカルテット、その3 600万ドルのバンド

「ええ良いわよ。問題が表面化したのは2050年の8月にその東洋のあ
る国から新しいPC用のOSが発売されたのよ。名前は「チャイナックス」。
ところがそのOSはそれまで世界中で標準的に使われていたマクロハード社
のSuperWin2050がサポートするアプリケーションをすべて使えるだけで
なく、独自のアルゴリズムによって、どのアプリケーションも2050で走ら
せるより3倍〜5倍の処理スピードが出せるの。それだけでなくアプリケ
ーションソフトも次ぎ次ぎと出してきたのよ。すべてマクロハード社のも
のより優れたパフォーマンスを示したわ。するとどうなるかしら」
「マクロハード社は大打撃を受けるね。しかもアメリカにとっても重要な
企業だ、これは単純に一企業の問題にとどまらない。と言う事ですか」
「そうよ。初めアメリカは著作権侵害で訴えた。しかし、もともとアルゴ
リズム自体が違うしチャイナックスの方がパフォーマンスが高いなどの理
由で国際IP条約機構はこの訴訟を却下したわ。その後CIAの調査でこ
のチャイナックスを作ったのが優秀なアメリカ人やイギリス人のDNAに
よって作られたクローンたちだと言う事がわかり、こんどはそのチャイナ
ックスの所有権がアメリカにあるという主張を初めたのよ。そして、アメ
リカは元々アメリカ人であるはずのクローンたちを救出するとう名目でそ
の東洋のある国の沿岸に核ミサイルを積んだ空母を送ったのよ。そして結
局、核戦争の一歩手前まで行ったわけ。でもその後チャイナックスのIP
(知的財産)所有権の70%をマクロハード社が持ち、クローンたちがアメ
リカやイギリスに移住する権利を認めることで収まったの。」
「なるほどね、さすがにアメリカだ。最後は力ずくだね。」
「ええ、でもこの問題が起きてからアメリカ国内でクローン禁止法の解除
が叫ばれはじめたのよ。」
「なるほどね。つまり、クローン人間自体が国家戦略上重要な要素になっ
たという事ですか、確かに一旦そう言うことになり、大衆意識が変われば
、すぐに方針を変更する国ですからね。アメリカという国は」
「その通りよ。それで21世紀の後半になると世界中が優秀なクローン人間
の複製に躍起になって来たの。もちろんアメリカでも国家プロジェクトとし
て年間100億ドルを投じたわ。はじめは主に科学、技術系のクローンを
多く誕生させた。これでIPの独占を再びわが物にしたわけね。21世紀の
後半はそのため蒙スピードで科学技術が進歩した時代になったわ。タイ
ムマシンが発明されたのもそのころよ。もちろん、なんでもかんでもクロー
ンを自由に誕生させたらこれはまた大変な事になるので、一定の枠がつく
られたのよ。22世紀になってからは年間1000人という枠が作られたわ、
これは大変貴重な存在になるのよ、それで今では、といっても22世紀の
事だけどDNAはもっとも重要な商材にすらなってるの、ロンドンのDN
A取引上が開かれてもう50年くらいは立つわね。そして歴史上価値ある
DNAも発掘されて、そう言った物はオークションにかけれているわ。特
に歴史上の人物のDNAは原則として芸術文化に寄与した一部の人しか認
められないの、また複数は認めれなし、DNAの採取において本人を傷付
けることはもちろん許されないけど極秘に採取しなければならない。だか
ら特別の採取チームだけが許されたのよ。」
「ありがとう、アリス。それで、コルトレーンのDNAもそのオークショ
ンに出てきたんですよ。あれはもう35年前だけど、コルトレーンカルテ
ット4人分のDNAがオークションにかけられた、ジャズ研究の特別チー
ムが採取してきたものなのでまず間違いないと思った、その時私は確か6
00万ドルで落札したよ。」
「ひえー、600万ドルですか。で、もしかしてあなたはそのDNAの
里親のような存在なんですか。」
「その通りです。そのDNAを元に誕生したのがあの4人なんです。」
オールドリッジ氏の目がきらりと光ったその瞬間を私は見逃さなかった。
「なるほど、あなたがコピーバンドであると同時に本人でもあると言った
わけがわかりました。」
 本来なら、この時私は、何故このようなことをするのかという質問を
するのが当然であるが、この場の雰囲気でその必要性をあまり感じなかっ
た。そんな質問は愚問であるからだ、何故か、それはこのオールドリッジ
氏はクレージーであると言う理由以外思いつかなかったからだ。ただ、
どうしても良心から次ぎの質問だけは避けられなかった。
「ところで、クローン人間の人権はどうなっているんですか。」
「全く同じよ。変わらないわ」
アリスがそう言ったのでちょっとホットした。
「もし、本人への期待に反して、ジャズとは違う道に行く場合
だって、無理やりというわけにはいかないでしょ。」
「ええ、そうよ。」
するとオールドリッジ氏が
「もちろんです。もし本人が建築家になりたいと言ったら私は認めなけ
ればならないんですよ。私の友人で以前ハービーハンコックのクローンを
誕生させた者がいたんだけど、...」
「ちょっ、ちょっと、待ってくれますか。あまりにもハードな話しを聞い
て来たので、一息つかせてください。アリスさんコーヒーもう一杯いいで
すか。」
 とにかく一回ここで頭を休めてゆっくり今までの話しを思い返す事にし
た。まず、コルトレーンカルテットそっくりのバンドだ。実際には22世
紀に存在するコピーバンド。ここまではOK。次ぎにこのコピーバンドで
演奏しているプレーヤたちは実は全員クローン人間である。そしてそのク
ローン人間の遺伝子はタイムマシンを使って1960年代に行ってジョン
コルトレーンから採取したDNAだ。例えばコルトレーンが吹いて捨てた
リードかなんか拾って唾液のなかからDNAを採取して22世紀に持ち帰
ればジョンコルトレーンのクローンを22世紀に誕生させることが可能に
なるだろう。そのクローンにジャズを教えれば、ジョンコルトレーンと同
じレベルの演奏者になる可能性は高い。中半端にDNAを引き継いだ息子
のラビコルトレーンなんかとはわけが違う、完全に一致しているから双子
以上のそっくりさんだ。なるほど、同様にマッコイ、ジミー、エルビンも
作れる。それをオールドリッジ氏は35年前にやった。DNAはオークシ
ョンで手に入れたわけだが。もし本物をタイムマシンで22世紀につれて
きたら、20世紀から本物が消えてしまうから、歴史に多大な影響があり
、それは時間法違反になる。しかしDNAだけ採取してくるならば歴史に
たいする影響はない。つまり時間法違反にはならない。
「すいません、ミルクももらえますか、ちょっとコーヒーを過ぎてしまっ
たようです。」
 アリスがミルクをコーヒーに入れてくれたので、それを一揆に飲み干し
た。
「ところで小室田さん、ちょっと旅行に行ってみませんか?」
突然、オールドリッジ氏が話しはじめた。
「旅行?ですか」
「ええ、そうです。まあ旅行と言っても散歩みたいなものです。コルトレ
ーンのコピーバンドのライブを聞きに行きませんか」
「それはさっきのコピーバンドですか。もしかして、この2002年につ
れて来ているなんて、言わないでくださいよ。そう言えば明日フラミンゴ
ホテルでプレスリーやマリリンモンローのそっくりさんが出るショーがあ
るけどそこに、コルトレーンカルテットそっくりさんバンドなんて登場さ
せるつもりじゃないでしょうね。いやそんなわけないですね。」
「はははは。それは面白い、考えても見なかった。実は残念ながら時間法
の規制で歴史クローンを本人が生きている時代につれてくることは出来な
いんです。ご承知の様にマッコイとエルビンはまだ元気でしょ。いやただ
ちょっと22世紀まで散歩にきませんかと言う事です。」
「散歩ですか。22世紀まで、」
これまたハードな話しだ。

第12話  黄金のカルテット その4  トラブル

「未来に行ったことはないんですか。」
「ええ、勿論、過去だってまだ2回だけです。第一私のタイムマシンには
年代設定で未来には行けないんですよ。現在の時刻を越えるような設定が
出来ないんです。」
「ロックされているんですね。アリス、あれ解除できるはずだったね。」
「ええ、でも古いタイプのは簡単には出来ないと思うわ、それに記憶マネ
ージメント機能もない物かも知れないわね」
「なんですか。その記憶マネージメント機能っていうのは」
「例えば、小室田さん、今から未来に行くといったらどんな気持ちかし
ら?」
「うーん、正直言ってめちゃくちゃ不安ですね。過去に行く場合だってす
ごく不安です。それでも歴史とかある程度事前に予備知識があるから覚悟
はできる。しかし、未来となると、皆目検討がつかないし、これから起き
る世界がどうなっているかを知ってしまう事に、なんとも言えない恐怖感
をもちます。」
「そうでしょう。当然だと思うわ。自分がリアルに生活している時代より
未来を確実に知るというのは例えそれが1年先でも、1ヶ月先でも、いや
1日先でもとても恐ろしいものよ。未来というのは予想がついても、常に
結果が出ていないから。逆に結果が出ていないということは可能性が残さ
れ、そして希望も消えないとも言えるわ。過去は結果がすべてであり自分
がもはやコントロールすることは絶対出来ない世界。その代わり人には未
来という結果がなくコントロールすることが可能な世界があるわけで、人
はこの2つの世界に挟まれていることによって精神常態が安定になるのよ。
 もし、未来の世界を知ってしまったら、未来の結果に直面するすること
になるけど、同時に未来はコントロールできない結果の世界となってしま
って、つまり過去と同じになってしまうわ。それで、その人は過ぎ去った
過去の世界とこれから来る過去の世界に挟まれてしまうの。そうすると大
変な事になるのよ。」
「うーん、難しいけどわかるような気がする。っで、記憶マネージメント
て、なにするんですか」
「簡単に言うと未来に行って、元の世界に帰ってくるときに未来で知った
記憶を消去するのよ。」
「うへ〜、また記憶消去の話しですか。」
「何か話したことあったかしら」
「いや、なんでもないです。一人言です。」
「記憶を消去することで,その人にとってはまた未来がコントロール可能な
結果のない世界になるわけね。」
「つまり精神衛生上の予防ということですね。と言う事は、私も帰ってくる
ときに同じように、その記憶マネージメントが必要になるっていうことか。
うーんどうしようかな、戻ってきても記憶がないなら意味ないしな。」
「それじゃ、これから私たちと未来に遊びに行くのはやめですね。」
「いや、ちょっと待ってください。それでも一回行って見たいな。恐いもの
見たさというか、戻ってくるときに全部忘れられるなら、それに未来のジャ
ズがどうなっているかも知りたいし、そうか、帰ってくるときには忘れなけ
ればならないから意味ないな。ところで、未来と言っても何年先なんで
すか。」
「2189年だから187年先ということになるわね。」
「187年ということは移動スピードが1年間あたり6分として、1122分
約19時間くらいですね。散歩なんてとんでもない。ちょっとした長旅じゃない
ですか。」
すると2人とも声をそろえて笑いながら。
「1年で6分!」
「アリス、家のマシン最高どのくらい行ったっけ?」
「そうね。今までの最高で1年を10秒でワープしたことがあるわ」
「はっははは、ちょっと飛ばし過ぎじゃないか、」
「ノーマルで20秒くらいかしら」
「1年で20秒ですか、それなら187年も1時間くらいだな」
「ええ、そうね。だからほんの散歩ということになるかしら」
「タイムマシンもピンキリなんだね。」
「ええ、オールドリッジさんのマシンは最高級品よ。スピードだけではないは
中も快適よ。」
「まあ、とにかくこちらにどうぞ。」
オールドリッジ氏は私をとなりの部屋に案内してくれた。となりの部屋の戸を
開けると、そこにもう一つ入口がついているではないか。その入り口は自動的
に開いた。どうやらこれがその最高級タイムマシンらしい。中に入ってみると
以外にも落ちついた雰囲気で、とても座りごこちの良さそうな座席が5席ついて
いる。そしてオペレーターのような女性が一人端末のようなディスプレイの前
に座っている。彼女はこちらを振り帰って見ようともしない。私たちは全員席
に座った。するとアリスがそのオペレータに向って、
「2189年、11月14日にお願いするわ」
するとそのオペレータの女性は振りかえりもしないで
「了解しました。ナビゲーションを設定します。」
と返事をした。そして、5分くらいたっただろうか
「もう、飛び立ちましたよ。快適でしょ。」
「あれ、4次元への突入はまだですか」
「いいえ、ちょっとまえに突入したはずよ。」
そうか、高級なマシンともなると突入時のショックもない。あれはいつもちょっと
やな感じなんだが。
「そう言えば、おなかが減ってきましたね。軽く食事でもいかかですか。」
オールドリッジ氏のその言葉を聞いたとたん、しばらく何も食べていない事
を思いだした。
「ええ、すいません。」
するとオールドリッジ氏が先ほどのオペレータの女性に向って
「 なにかもってきてくれいか。」
と頼んだ。
「はい」
その女性がなにか冷蔵庫のようなボックスから持ってきてくれた。
サンドイッチだったがまったく冷たくなく、作りたてのような
感じだ。
「あれ、冷蔵庫じゃないんですか」
「22世紀では冷蔵庫はあまりつかってないわ、冷やさなくても保存
出きる方法があるから」
なるほど、そのくらいのことはお手のもんだろうな。
 その後、おいしいサンドイッチを食べ終わったそのときである。
とつぜんアラームのようなものが鳴り出した。
「どうしたんだい。」
オールドリッジ氏が口を開いた。
「ちょっと問題がおきました。」
そして、アリスがオペレーターの女性と話をしている。なにか真剣な感じだ。
そして、アリスがオールドリッジ氏のところに来て
「ちょっと、技術上のトラブルが起きました。」


13話へ続く  第1話から

注意:このドラマはすべてフィクションであり登場する人物、団体等はすべて架空のものです。また記録に残っているいるアーティストとその関係者についてのエピソードもすべてフィクションであり、実存した物語ではありません。

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