ジャズのバンドやろうぜ。
 メンバー探しからライブハウスブッキングまで
(バンド運営マニュアル:下巻)

今月は4月号の続きです。さてバンドメンバー探しを中心にお伝えした上巻につづいて今月はバンドをどうやって育てるかを主体に特集しました。

まずは手内さんのその後

 手内さんのカルテットは再スタートした新しいメンバーと伴にに順調に練習を続けて来ました。そして1年が経ちました。スタンダードの曲なら30曲くらい演奏してきたし、メンバーの癖も良くわかってきて、次ぎに同出てくるかなんとなく想像がつくようになったし、メンバーの苦手な曲、リズムなどもわかってきました。そろそろ自分たちの演奏を人前でやりたいという気持ちが強くなってきて発表の場を探すことにしました。そこで、バンドが集まって演奏をやる場をつくったらどうかという西郷さんの提案があり、早速、セッションクラブ枯葉などを通して意見を聞いて見ることにしました。すると他に参加したいバンドが2つくらいありそうなので、進める事にしました。会場はライブハウスを借りきるという形をとろうと思いました。日曜には貸切りしてくれる御店もあるので探すことにしました。そこで初めにグルーブハウスという有名店にあたってみましたが1時間40000円ということでした。この場合バンドの持ち時間30分として1バンドあたりの負担費用は20000円になります。バンドがカルテットであれば一人5000円になります。トリオなら6000円以上です。そこでこれはちょっと厳しいという事で、もっと安く借りられるところを探しました。最終的にちょっと駅から遠いけど、1時間8000円でいいという御店を見つけました。ここなら一人あたりの負担額1000円くらいで済みます。実際には参加費1500円として余裕をみることにしました。また見学、ジャムセッションのみの参加者からは1000円という事にしました。

ライブ大会

 このような活動はけっこうやってると思います。割と重要なのは参加費の設定です。1000円〜2000円位、つまりジャムセッションに行ったときと同じ程度が目安ですね。あまり高いとこんど参加するバンドが少なくなってしまいます。また出きれば、参加者が少ない時などは時間枠を少なく、また多い時は時間枠を広げるなど融通を利かせてくれるように御店に頼むのも手です。 私は大分昔「蔵前ジャズ連絡会(首都圏ジャズ連絡会)」という組織を作って3ヶ月に1回、「ライブ大会」と称してバンドを集めてライブを開催していました。この時はお店と交渉して、完全チャージ制でやらせてもらいました。1人1500円として、参加人数分集めて御店に払うというものです。ですから赤字のリスクはありませんでした。お店自身がこのような企画
やってるところもたまにあります。また良い条件で交渉するための御店選びですが老舗店は避けて、むしろオープンしてあまり時間がたってない御店がねらい目でしょう。御客を呼びたいはずですから。また御店の環境もよくチェックしておきましょう。4ビート系のジャズの場合、生ピアノは必須ですが出来ればグランドピアノがほしいところです。またドラムセット、アンプ関係、PA関系などチェックしてくことも必要です。ウッドベースは、当日だれかに持ってきてもらいましょう。
 さて店が決まったら、こんどは募集です。出来るだけ広く告知することをお薦めします。もちろん社会人ジャズサークルのメンバーにも声をかければいいと思いますが、私の場合それ以外にジャズライフの募集記事をよく使いました。今だったらWebで告知するのもかなり協力な効果がありますね。そう言う意味ではいい時代です。
 当日ですが、事前に各バンドのタイムスケジュールを発表するのは考え物です。そうすると自分たちのバンドの演奏時間直前に来て終わったら即帰る不届きな連中に利をもたらします。こういう活動で大切なのは他のバンドの演奏を良く聞くということです。その上で自分たちの演奏を聞いてもらうということです。(この辺は事前に参加者に良く説明して理解してもらいましょう。)それよりも他のバンドがどんな演奏をしてくるか楽しめます。もちろん「すごいバンドだ!」とか「汚ねえ、こんな手があったのか」とか刺激があるかもしれません。私がやっていたときはライブ大会開催5分前に参加者全員集合してもらって、その場でスケジュールを発表しました。もしメンバーがそろっていなければそのバンドのスケジュールは決めません。この方式をとると一番最初に演奏する人たちも大勢の前でやることが出来ます、けっこうはじめから盛り上がります。また最後のジャムセッションを入れておけば最後まで人数を維持できます。
 また時間割ですが、1バンドのもち時間として30分〜長くて40分くらいですね。30分として、余裕を見て入れ替え/セッティングに5分として正味25分です。この中でカルテットだとスタンダード1曲8分として25分なら3曲くらいがいいところです。3曲あればオープナー、バラード、ラストと一応構成できます。モーダルな曲があれば2曲構成ですね。トリオならさらに1曲増やせる場合もありますが、トリオ専門のピアニストは結構ソロが長いので要注意です。この辺はあらかじめバンドのリーダーに説明しておきましょう。

バンドのレベルアップ

 さて、無事、ライブ大会は6バンド参加で盛況でした。手内さんのバンドもいつもの練習の成果がだせました。ところで今回のライブ大会の後、手内さんたちはものすごく刺激をうけました。それは参加バンドの中にかなり仕掛け(決め)を作って演奏していたり、マニアックな選曲で演奏しているバンドが多かったことです。手内さんたちの様にスタンダードをそのままジャムセッションと同じ構成で演奏していたバンドは少ない方でした。個性を出しているバンドはかっこいいと思いました。やはりイントロ、テーマのアレンジの重要性を認識し、また選曲もマニアックでないにしても普通ジャムセッションでやるような曲は外そうと考えました。そこで次ぎの練習までにアレンジした譜面を最低1曲は用意しようと思ったのですがどうしたらいいのか途方にくれました。

ジャズのバンドはどんなアレンジ譜をつかうのか?

 さて、ジャズのバンドで仕掛け、決めというのをどうやってやるかですが、基本的な考えとして、ビッグバンドのような細かいパート譜のような物は使わないのが普通だと思った方がいいでしょう。実は譜というほどのものではなく、もうコード進行と簡単な指示で済ませる場合が多いです。基本はアレンジといっても「大まかの方針、方向性のようなことが伝われば良く、あとはそれぞれのプレーヤの解釈によって具体化する」ということを常に年頭ににいれておきます。細部にまで細かい指示を出すことはジャズからどんどん離れて行く事だと思った方がいいでしょう。第一、リズム隊から嫌われます。
 そこで具体的な例で説明します。まずEX1を見てください。この様にベースのペダルポイントのパターンが示されているだけです。もっとラフな場合はここにCペダルとしか書かない場合もあります。この場合まずベーシストにこのパターンを弾いてもらって、それをピアニストとドラマーに聞いてもらい、それに合うようにしてもらいます。たったこれだけの事で方向性が出てきます。しばらくすると、こんどはそのピアニストとドラムの演奏に触発されて、ベーシスト自身がパターンに変化をつけてきます。EX2は決めの部分をリズム譜(音階を表示しない)だけ書いて済ませてる場合です。これで十分決めが作れるはずです。EX3はイントロの部分を大まかに既成のCDから拾っただけです。実際アレンジも既成の演奏をパクるというのが手っ取り早いですし、勉強になります。EX4はイントロのコードボイシングまで指定し例ですが
むしろ異例のほうだと思います。このボイシングは3度が省略されていてアドリブのスケール選択を広げています。

効率の良い練習方法

 実際のバンドでのリハですが、アレンジがある場合はバンマスが事前に揃えておくべきです。出来れば上の例にある程度の譜面は用意しておきたいものです。簡単な場合は演奏の前に「ここからここまでラテンで」とか「頭から4ビートで」とか説明してからスタートしたいものです。また、譜面また言葉で説明できない場合はサンプルの音源を聞いてもらうのも良い方法です。またリズム隊のメンバーはその場で決まったことは忘れないように譜面に記入しておきましょう。
 また、モーダルのインタープレーの長い曲などはリハの現場で何回も演奏して、それぞれのメンバーの出方みたいなものに慣れるといいと思います。またドラムソロの終わりなど合図などを決めておく場合もあります。

コード表記について
 
 コード表記ですが、非常に簡単に書いてありますが、実際にはテンションがほとんどの場合つきます。テンションノートを細かく指定した書き方はまずしません。通常以下の様に考えます。

表記記号
 C : Cmaj9、Cmaj13、Cmaj#11、C69

 C−:Cm9、Cm11

 C7:C9、C13、C13(9)、C11

 C7+9、C7-9:C7#9、C7♭9、Calt、C7♭9#5th

 原則的にはどう言うテンションノートをつけてバッキングするかを決めるのはピアニストの役割です。ピアニストが普段自分の癖として使ってるボイシングパターンとの関係もあり、逆に指定されるとやりにくくなります。これはピアノの代替にギターが入った場合も同様です。ただし、海外のフェイクブック(リアルブックなど)またはジェイミーアバーソルドなどの楽譜に書いてあるコードでは上の表のようにドミナント7thコードの場合、#9や♭9の場合あえて表記されている場合が多いですがこれはいわゆるオルタードドミナントコードとして別コードのように扱っているからです。もちろんスケールも違ってくるわけです。解決する先がマイナーコードである場合はつけなくともピアニストは認識できますが、例えばEX1のような曲の場合あったほうがわかりやすいと思います。メジャーコードに解決する場合でも#9のような場合を指定したいこともあり、この辺は書いておきたいところです。またメロディー譜がない場合、トニックのところでテーマにmaj7の音が使われている場合にC69を弾かれると半音でぶつかることを避けるためCΔのような表記を使う場合もあります。メロディー譜がある場合これは必要ないでしょう。それとモーダルな曲の場合、Dーと書いてあっても、BOPのそれとはぜんぜん違う意味をもちます。最近はそのアプローチをBOPに使う方法もありますが、いずれにしても「最小限の確実な指示」ということを心がけたいものです。


ライブハウスへの出演

 さて、バンドとしてまとまってきて、またアレンジ決め、選曲などに個性が出せるるようになると、上述のライブ大会だけでなく、ライブハウスでも演奏したくなりますし、出来ればレギュラーとして毎月ブッキングされたらなあとも思います。このような活動をしていく場合の心構えをまず列挙します。

 1.バンドメンバー全員が2ケ月先の予定を入れられること(多くの御店がジャズライフなどにスケジュールを載せたいのでジャズライフ発売ほぼ1ヶ月前に発売日以降のスケジュールをブッキングしたいためですが、スケジュールをジャズライフに載せてない御店の場合は別に問題ないでしょう。)

 2.バンドメンバー全員が仕事が終わってから御店までライブ開始前までにアクセス出来ること

 3.リズム隊の場合、万が一、店に行けなかったときに自分の替わりのトラを用意できること。

 4.店においてない楽器(特にウッドベースなど)をもってこれること。

 5.レパトリーとして最低でも御店で演奏する時間分の曲を持っていること。たとえば30分×4くらい。

 6.ライブ終了時間以降(少し遅くなることも想定)家に帰れること。11時とか12時くらいになる場合が多いと思います。

デモテープ制作

 さていよいよ御店にデモテープを渡してブッキングを御願いするわけですが、デモテープに入れる曲は2〜3曲程度でいいでしょう。頭に自分たちの一番自身のある曲をまず入れます。あとは雰囲気の違う曲を入れます。御店には連日デモテープが送られてくるので頭の1曲か2曲くらいしか聞いてもらえないかもしれません。
 狙い目の御店ですがこれもやはりオープンして間もない店が有利です。特に「出演者募集中」の告知を出しているところはスケジュールをブッキングするのに必至ですから、いい返事が返ってくる可能性があります。また郵送する場合、自分たちの簡単なプロフィールなどを添付しておくといいでしょう。

ブッキング依頼

 通常、御店のマスターまたはブッキングマネージャから電話があります。ブッキングマネージャーは必ずしも御店の人とは限らず、依頼されてデモテープを聞いてブッキングのみを担当している人もいます。ここで、日程の確認、演奏の開始時間、ステージ数、チャージバックまたはギャラの条件、御店の機材などを確認します。それと、ジャズの御店では少ないのですがノルマ制でないことを確認しましょう。何人か御客さんをつれてこれるか聞かれた場合はかならず「ノルマ制ではないですね。?」と言っておいた方が無難です。もしノルマがある。と言われたら、断ることをお薦めします。(基本的にミュージシャンにノルマを強いるのは御店が楽をしたいと言う発想に過ぎないからです。御客さんをライブに呼ぶのは御店、ミュージシャン両方の役割だと思いますがそれを一方的にミュージシャンにしわ寄せするものです。もちろん知人がたくさんいて集客力のある人はそれでもいいと言うかもしれませんが、実はもともとそれだけ集客力があれば別にあえてノルマ制の店でなくとも歓迎される御店はいっぱいあります。)
 また演奏する曲に対する若干の指示などもある場合があります。例えば「ハービーハンコックみたい難しいのは避けて、スタンダードのわかりやすいのを」とかです。また日程の確認は少なくとも自分がOKでもバンドメンバーに確認してから再度連絡することは言うまでもないことです。

初めてのライブ(仕事)

 社会人の場合、勤め先からお店に直行しざる得ないことが多いと思いますが、一度も行ったことのないお店の場合、地図などがあっても非常にわかりにくい場所にある事も想定して、1回事前に御店まで行っておいた方が無難です。出来れば機材なども下見しておきたいです。
 さて御店について、御店の人と挨拶してください。(夕方の7時でも「おはようございます」ということになります。因みに帰りは「お疲れ様」です。)まずは機材、楽器をチェックしてください。PAの操作方法は御店の人に聞いてください。もし御客さんがいなければ御店に断って、音出しのリハくらいはしておきたいものです。
 それから、演奏した後、のどが乾いたりしてちょっとなんか飲みたくなることがありますが、そんな時に御店のメニューを注文しなくとも「バンドドリンク」として別料金(または只)で出してくれるところもあります。その辺は確認しておいた方が徳です。

時間が来たら例え御客さんが一人でも演奏は開始します。

 これはお店との約束であり、もっと大げさに言えば御店との契約だからです。アマチュアといえども、この辺から意識を切り替えなければなりません。大事な事はこの瞬間から出演者自身がブランドをもつことになるということです。会社にいれば従業員であってもライブに出演したらバンドとしての責任者なのです。ですから、必ずしも、誰から注意されるというわけではありません。信用の問題として考えなければなりません。これは例えチャージバックがなくとも関係ありません。お店にとっては正業としての営業だからです。そう言ったなかで注意しておきたいことを上げます。

 1.演奏開始前にお客さんの前で曲のテーマを練習してはだめです。

 お客さんが入ってきたら、リハはなるべく止めましょう。それと、演奏する直前でついテーマの練習をしてしまう人がいますがこれはいただけません。プロの中にはこう言うことをするとものすごく怒る人もいます。ライブの1曲目のテーマは一番印象にのこるところなので、そのインパクトはお客さんにとって大事なことです。

 2.演奏が始まったら、やりなおしは死んでも避けてください。

 例えばテンポが違ってしまった。始まりがずれてしまった。リハで決めたことと全く違うことをしてるメンバーがいるとか。今どこをやっているかわからなくなってロストした。など、アクシデントがあっても絶対に演奏を止めてやり治しはしないということです。苦しいですけど、なんとかエンディングまで持っていってください。演奏の途中やり治しはどんなにジャズを知らない人でも、音楽を知らない人でも確実に間違ったということを教えてしまうからです。またロストしたメンバーに「今ここやってるよ」とお客さんに気付かれるように言うのもまずいですね。

 3.自分たちの演奏の出来が悪いと思っても、口が裂けてもMCで弁解してはいけません。

 「ちょっとさっきの演奏良くなかったですけど」なんていう弁解は仮にそれがほんとうだったとしてもお客さんを落ち込ませる以外なんの意味もないことを悟っておきましょう。

 4.内輪の輪に注意

 自分のライブのときに知人とかミュージシャン仲間などを誘ってきてくれることがありますが、演奏終了後に挨拶するのは当然ですが、飛び込みのお客さんがいるときはその仲間に入ってそこで盛り上がるのは避けておきたいですね。他のお客さんは言い気持ちしないでしょう。出来たら飛び込みのお客さんにも挨拶したり、少し世間話をしたりした方がいいかも知れません。

お客さんを呼びつづける

 さて、このジャズのバンドやろうぜも最後になりましたが、御店でレギュラーとして毎月ブッキングしてもらうようになった後の事です。やはり御店はお客さんが沢山入ってくれるバンドだとありがたいし、また出演する側も演奏に張り合いがあります。しかし無名のアマチュアバンドで、御店もあまり知られてない場合、やはりお客さんの誘致は御店にだけ任してるわけにはいかないでしょう。そこで、DMを出したり、中間のミュジシャンに声をかけたりという活動が必要になります。特にミュージシャンの場合は来てくれたら、必ず少なくとも1〜2曲くらいセッションとして参加させてください。あるいは御店と相談して、最後の1ステージは全部セッションにするなどの方法も良い方法です。後は飛び込みのお客さんがリピーターになってくれるかどうかです。飛び込みのお客さんが多いか少ないかは御店側の実力による部分が多いと思いますが、リピータになってくれるかどうかはバンドの実力が試されるところです。最近はインターネットを上手く使って、自分たちのバンドのライブの誘致をうまくやっている人たちもめずらしくないです。そしてやはり最後に行きつくのはやはり良い演奏ができるかどうかという事に帰着します。そのために練習はもとよりアイディアや工夫を続けると言う事になります。

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