リディアンクロマティックコンセプト入門講座(3)

リディアンクロマティックコンセプト入門講座(2)    リディアンクロマティックコンセプト入門講座(1)

  今回からいよいよリディアンクロマチックコンセプト(以下LCC)がどの様にに機能するか本領を発揮し始めます。今までLCC1とLCC2で説明した内容はある意味単にバークリーシステムのアベイラブルノートスケールを使って表現されてきた語法に対して、コードをリディアンスケールに一旦統一して、あくまで必要最小限のスケールに統合するというLCCの語法を説明したに過ぎません(それでも慣れれば使いやすいですが)。ここまではアベイラブルノートスケール理論でもダイアトニックコードがメジャースケールに統合されること、あるいはマイナーコンバージョン理論でマイナーコードに統合すること、あるいはブルーノートと調性理論があるコードのスケールディグリー上のスケールが他のコードのスケールディグリーと一致することなどを考えればそれほど際立ったことではないと言えるかも知れません。しかしこれらの理論は一旦ここで終結してしまい、そこから先は個別のアナライズによって少し言い方が悪いかも知れませんが場当たり的な方法論しか展開できず、結局、代理コード、裏コード、短3度ずらしなど、全体を体系化してまとめることが出来なかったわけです。
 さて、ちょっと難しい話をしてしまいましたが、少し復習をかねてLCCの語法を説明しますがあるコードが与えられたときそのコードに協和なリディアンスケールが存在します。このリディアンスケールはそのコードのペアレントスケールと言います。(もちろんこのペアレントスケールを使ってアドリブフレーズを演奏できます。)そしてペアレントスケールのトニックをリディアントニックと言います。例えばF#m7♭5のペアレントスケールは前回のやり方を参考にしてCリディアンスケールになります。そしてリディアントニックはCになるわけです。ここからが重要なのですが一旦決まったこのリディアントニックCを共通として別のスケールも協和なスケールとしてありえるのです。ex1に示したCリディアンオーグメンテッドスケールに変化させられます。
ex1 Cリディアンオーグメンテッドスケール


またex2のCディミュニッシュドリディアンスケールにも変化させられます。
ex2 Cリディアンディミニュッシュドスケール

これらのスケールはアベイラブルノートスケールにも出てこない名前ですがそれぞれリディアンのVが#Vに、またIIIが♭IIIに変わると覚えるとわかりやすいと思います。つまりF#m7♭5に対応するスケールは

1.Cリディアンスケール
2.Cリディアンオーグメントスケール (V→#V)
3.Cリディアンディミニュッシュド (III→♭III)

となります。ここまではインゴーイング(協和)なスケールとして適用されますがさらに多少アウトな感じのスケールとして(セミアウトゴーイング)以下の3つのスケールが加わります。

4.C補助オーグメント
5.C補助ディミニュッシュド
6.Cブルースディミニュッシュド

4.5.6に関して詳しくは次回以降に説明したいと思います。

 結局F#m7♭5というコードに対して共通のリディアントニックCを持つ6つのスケールを選択できることになります。そしてこれらのスケールはそれぞれ独自のカラーをもっています。つまりプレーヤーが6種類のスケールカラーを選べるのです。ex3にこれらの関係を図式化しました。私はLCCの本を読んでいてこのことがわかった時、驚きました、そして、何回もこのことが書かれているページを読み返しました。そして驚嘆し、決心しました。「今後はリディアンクロマチックで行こう、アベイラブルノートスケールよ去らば!」
ex3 コードとスケール間の相関チャート


ex3についての詳しい説明

 まず与えられたコード:F#m7♭5のペアレントスケールはCリディアンスケールになります。(導き方はLCC2を参考)。そしてインゴーンング(コードとの協和性が強いことを意味します。)の範疇としてCリディアンオーグメントやリディアンディミニュッシュドなどのスケールも使えるようになります。これだけでも1つのコードに3つのスケールが用意されました。そしてさらにややアウトな感じを与えるセミアウトゴーイングなスケールとして補助オーグメントや補助ディミニュッシュドも使えます。実はこの補助オーグメントスケールというのは所謂ホールトーンスケールのことです。つまりF#m7♭5というコードに対してのホールトーンスケールはCのホールトーンスケールを使えるという事がわかります。また補助ディミニュッシュドスケールは所謂コンビネーションディミニュッシュドスケール(俗にコンデミ)と同じインターバルをもっています(トニックの位置が違いますが)。
 ところで、リディアンから変化していったリディアンオーグメントやリディアンディミニッシュドはペアレントスケールにはなれないのでしょうか。実はそんなことはなくこれらを直接のペアレントスケールとするコードも存在するのです。図の右にあるA♭7#9(#5th)というコードのペアレントスケールはCリディアンオーグメントスケールなのです(この関係はドミナント7thコードにオルタードを使うときと同じ結果になります)。ここでは詳しく説明いたしませんが補助ディミニュッシュドや補助オーグメントをペアレントスケールとするコードももちろん存在します。これらのスケールとコードの関係はジョージ・ラッセル氏の本に出ています。もちろん、このCリディアンスケールはB7#9、♭9やAm7やD7のペアレントスケールでもあります。

 F#m7♭5のもう一つのペアレントスケールとしてAリディアンスケールもあります。ただしこれは協和性が少し下がるため第2音階度数と呼ばれています。ジョージ・ラッセル氏が2001年に再出版した本ではこれをA.M.Tと呼ぶようになりました。因みに英語で書かれた原本(第2版)にはこの第2音階度数は定義されていませんでした。ただし、実例としては載っていましたが、はじめに読んだ時、私は疑問に思いました。初版から30年ほど経った1980年代に発売された日本語版に初めて第2音階度数と言う言葉が登場いたしました。そして、2001年版でA.M.Tと呼ぶようになりました(定義の意味が少し広がりましたが)。また実は今回、私がさりげなく使ったセミアウトゴーイングという呼び方も2001年版からです。このようにLCCはずっと研究しつづけられその詳細が少しづつ世の中に発表されているのです。しかし、その骨格となる考え方は変わらず、肉がつきながらより明解になってきています。そして2001年版ではアベイラブルノートスケールに相当するものをコードとして捕らえるところまで概念が進化しています。

ここだけの話これは裏話なのですが、リディアンクロマティックコンセプトの原本を読んでいた「ブルーノートと調性」の著者、浜瀬氏がその本の中で「リディアンクロマティックコンセプト批判」と題して16ページにわたり解説したり疑問点をぶつけているのですが、それに答えるべく解説が2001年版に見られます。実は浜瀬氏が「ブルーノートと調性」を出版したときにその内容を知ったジョージ・ラッセル氏は激怒したそうです。そして出版を差し止める法的な処置まで検討したようですが、結果はなにも出来ずに終わっています。最後に「批判」とつけて出版したところがミソで、このような場合、言論の自由が主張できるでしょうし、また理論を単に自分の視点で解説しただけであり、また引用もありません。著作権侵害にもあたらないわけです。当然ラッセル側はなんの権利行使もできなかったと思われます。LCCの邦版が出版され、2001年版も出版された現在、浜瀬氏の批判の内容が初歩的な誤解や個人的な視点に立っているもので、いまさらそれに答えても意味なさそうですが、ラッセル氏は激怒したとはいえやっぱり気にしたのでしょう、こんどは浜瀬氏が読んでも誤解がないように書直されています(笑)。もちろん浜瀬氏の疑問点の中には「なぜ、ハーモニックマイナースケールが存在しないのか」と言った内容などは多少なりともジャズ理論を勉強したものからすれば当然抱く内容も含まれています。この点に対してもページを割いて書かれています。(ハーモニックマイナースケールに近いリディアンディミニュッシュドがあるので全く困らないのですが敢えて説明をしています。)

バーチカルポリモダリティー

ジャズ理論書をさ迷うさまざまな誤解、これも余談になりますが、アベラブルノートスケールでチャーチモードを流用してしまったためにこのモードと違和いるモード奏法のモードとが混同されて「Dm7をドリアンモードで」と言った説明をしてしまっている本も見受けられます。正しくは「Dm7をドリアンスケールで」です。つまりDm7のときに使うスケールはCメジャースケールでも良いことになります。モードと言うのは日本語で旋法のことで例えば1小節の中で簡潔する話ではないのです。LCCではこの点を明確にするために一般的にジャズでコードにバーチカルなアドリブを行う場合は垂直的多重旋法(バーチカルポリモダリティー)と定義しています。

Bebopスケールの理論的裏づけ

ところで、最近はやりのBebopスケールですが、その1例としてDm7ではDドリアン+C#となっています。ではなぜここでC#が使えるかすぐに説明できるでしょうか? LCCでの説明はとてもシンプルです。

 Dm7のペアレントスケール:Fリディアン、Fリディアンオーグメント(バリエーションとして)
 Dm7のBebopスケール=Fリディアン+Fリディアンオーグメント(LCCでは当然使えるスケールをMIXしてもOK)

結果的にDから初めて書くと DEFGABCC# となるのです。

じつはこのスケールをFからはじめるとリディアンオーグメントに出てくるC#が加わるだけなのです。

     FGABCC#DE となりますがLCCではこれを8トーンオーダーと読んでいます。

さらにまだ使える音が実はありまして、FリディアンディミニッシュドのG#です。

     FGG#ABCC#DE となりますがLCCではこれを9トーンオーダーと読んでいます。

ここまでほぼインゴーイングで使えるのでBebopスケールもDm7でDドリアン+C#+G#と拡張としても可能なはずです。(あくまで理論的に考えての私の案です。)

リディアンクロマティックスケールへの拡張

LCCでの9トーンオーダー(音階順列)と言う言い方がありますが正確には以下のように並び替えます。

     FCGDAEBC#G# となります。良くみるとFからBまで5度の連鎖により連結しています。ただしBとC#のところだけが2度になっていますがまた5度の連鎖でつながっていきます。Fから遠いほどトニックFに対しての重力の様な物(tonal gravity)が下がっていきます。

このトーンオーダーをアウトゴーイング(12トーンオーダー)まで拡張していくと最後に12音全部でてきます。それがリディアンクロマティックスケールになります。

   12トーンオーダー  FCGDAEBC#G#D#A#F# (最後のA#とF#の間は短3度になります)

(トーンオーダーについてはまたいずれ詳しく説明したいと思います。)

今回のLCC3、後半少し難しいところがありますが、この内容ではまだまだおさわりです。これからも続けて記事にしていきたいと思っています。(因みに第二音階度数のペアレントスケール、II-V進行がマンネリ化してきたときに使うと効果的ですよ
。^^)


参考図書

1.Lydian chromatic concept of tonal organazation 1958 George Russell
2.Lydian chromatic concept of tonal organazation 2001 George Russell
3.調整組織のリディアンクロマティックコンセプト ジョージラッセル


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